大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和34年(ネ)81号 判決 1959年10月12日

控訴人 佐藤ちよ

被控訴人 菅井義男 外二名

参加人 国

国代理人 滝田薫 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市に対して有する昭和三一年九月八日金銭消費貸借による貸金債権金五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する利息債権について、控訴人は請求権を行使することができないことを確認する。

控訴人の被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市に対する請求を棄却する。

被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市は連帯して参加人に対し金三三一、二二九円及びその内金二一五、〇〇〇円に対する昭和三四年四月二二日以降完済まで一〇〇円につき一日三銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用(参加による費用も含む)は第一、二審を通じてこれを控訴人及び被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中主文第二及び第四項を取り消す。被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市は連帯して控訴人に対し金二〇四、〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年二月二日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え(請求の趣旨減縮)。訴訟費用は第一、二審とも右被控訴人らの負担とする。」との判決並びに右金員の支払を求める部分について仮執行の宣言を求め、後記参加人の請求の拡張につき申立却下の判決を求め、被控訴人菅井義男は控訴棄却の判決を求め、被控訴人国(以下参加人と称する)代理人は従前の請求の趣旨を変更して「控訴人が被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市に対して有する昭和三一年九月八日金銭消費貸借による貸金債権金五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する利息債権について、控訴人は請求権を行使することができないことを確認する(請求の拡張)。被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市は連帯して参加人に対し金三三一、二二九円及びその内金二一五、〇〇〇円に対する昭和三四年四月二二日以降完済まで一〇〇円につき日歩三銭の割合による金員を支払え(請求の減縮)。訴訟費用は第一、二審とも控訴人及び右被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において

一、被控訴人菅井義男、加藤富子、佐藤政市との関係につき、仮りに参加人による国税滞納処分に基く差押の結果、控訴人において本件貸金債権のうち元本金五〇〇、〇〇〇円についての債権取立の行使ができないものとしても、利息債権についてはその取立行使ができるものである。そして本件貸金債権の利息は貸付けた月から支払う約束で、弁済期後は損害金となる性質のものであるところ、被控訴人菅井、加藤、佐藤(以下被控訴人らと指称する)は控訴人に対し貸付当日から昭和三二年一二月一四日までの一五ケ月と七日分の約定利息及び損害金として一〇数回に合計二二八、三五〇円を支払つただけで、その後の支払をしないから、被控訴人らに対し昭和三二年一二月一五日以降右利息及び遅延損害金債権が発生していた原判決の言渡日の前日たる昭和三四年二月一日までの約定損害金合計二〇四、〇〇〇円及びこれに対する同月二日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるものである。

二、参加人との関係につき、

(一)  本案前の主張として、(1) 本件控訴は原判決につき第一審被告らである被控訴人ら三名に対してなされたもので、参加人に対してなされたものではないから、原判決は控訴人対参加人の関係においては既に確定している。従つて参加人はいかなる意味においても最早本件訴訟に関与し得るものではなく、(2) 仮りにそうでないとしても、参加人は第一審において請求どおりの判決の言渡を受けているのであるから、更に控訴ないし附帯控訴をもつて請求の拡張をなすことのできないものである。故に参加人の請求拡張の申立は不適法として却下されるべきである。

(二)  本案の主張として、国税滞納処分としての債権差押がなされた場合、国税徴収法第二三条の一第二項により国は税額及び滞納処分費用の限度において債権者に代位するに過ぎない。そして代位とは債権者の有する権利を代つて行使するもので、それがために債務者は債務者に対する権利を失うものではない。またその代位の限度は右税額と滞納処分費用の範囲に止まるもので、その余の部分については差押あるにかかわらず、債権者において行使できるものである。ところで、本件において、国は本件債権元本五〇〇、〇〇〇円に対し本税金四二五、〇〇〇円につき昭和三二年四月二三日差押の手続をした。そして、前記法条により代位すべき金額は昭和三三年九月一日現在(昭和三四年七月二日附準備書面に「昭和三三年九月一六日現在」とあるのは誤記と認める)で右本税のほか利子税、延滞加算税及び滞納処分費用を合せて五一七、〇七五円あつたのであるが、参加人は特に一七、〇七五円を抛棄して五〇〇、〇〇〇円の限度において本件参加訴訟を提起し、原判決はその請求を是認したのである。故に該判決の結果控訴人は本件債権元本五〇〇、〇〇〇円は原判決の宣告のあつた昭和三四年二月二日をもつて喪失した。しかしながら、控訴人の有していた右元本債権は右判決宣告の前日たる右同月一日までは存続していたものであるから、控訴人は右日時までの利息または損害金の内弁済未了のものにつきその権利を有し、かつ、これを行使し得るものである。

三、なお、参加人主張の後記二の事実中弁済関係及び計算関係がその主張のとおりであることは認める。

と述べ、被控訴人菅井義男、佐藤政市において

一、控訴人の前記一の主張について、控訴人に対し控訴人主張のような利息及び損害金として合計二二八、三五〇円(国税滞納処分による差掃を受けるまでは合計一三〇、八五〇円)を支払つたことは認めるが、その余の点は否認する。本件五〇〇、〇〇〇円の債権は昭和三二年四月二三日国税徴収法第二三条の一第一項によつて差押えられたものであるから、それ以後の右元本債権は国に帰属すべく、従つて爾後同元本債権から控訴人主張の利息及び損害金の発生する余地はない。故に被控訴人らの前記支払金二二八、三五〇円のうち差押以後の分は過払として控訴人から払戻を受けるべきものである。

二、参加人主張の後記二の事実中、被控訴人佐藤が参加人主張のとおり弁済し、よつてその主張のとおり税金等へ充当がなされたことは認める。

と述べ、被控訴人加藤は本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなすべき準備書面(昭和三四年四月一日附答弁書と題する書面)の記載によれば、被控訴人菅井等主張の前記一の事実と同趣旨のことを述べ、参加代理人において

一、控訴人主張の前記一の事実を否認する。国税滞納処分による債権差押の効力は滞納処分費及び税金額を限度として利息債権にも及ぶので、昭和三二年四月二三日参加人による本件貸金債権五〇〇、〇〇〇円の差押により控訴人は右貸金債権は勿論のこと、これに対する利息債権についても請求権を行使することができないものである。よつて控訴人が右請求権を行使することができないことを確認の求める。

二、被控訴人佐藤は平税務署長に対し右差押にかかる債権につき、昭和三三年一二月一五日に一〇〇、〇〇〇円、同三四年二月二日に金五〇、〇〇〇円、同年三月二日に金三〇、〇〇〇円、同年四月二一日に金三〇、〇〇〇円、以上合計金二一〇、〇〇〇円を任意に弁済したので、このうち控訴人の国税滞納額中本税に金二〇九、二九五円、滞納処分費に金七〇五円を充当し、控訴人の本件貸金債権はこの弁済額の限度で消滅した。よつて被控訴人らに対し本税相当額金二一五、七〇五円、延滞加算税相当額金二一、二五〇円、利子税相当額金七〇、一二五円と別紙の計算により算出した昭和三三年九月二日から同三四年四月二一日までの利子税相当額金二四、一四九円、以上合計金三三一、二二九円及び内金二一五、〇〇〇円(金一、〇〇〇円未満の端数を切捨てたもの)に対する昭和三四年四月二二日以降完済まで相続税法所定の一〇〇円につき日歩三銭の割合による利子税相当額の連帯支払を求める。

と述べたほかは、すべて原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

理由

控訴人が昭和三一年九月八日被控訴人菅井に対し金五〇〇、〇〇〇円を控訴人主張の約定のもとに貸与し(本件貸金債権)、被控訴人加藤及び佐藤がその連帯保証をしたこと並びに控訴人が参加人主張のような経過で負担するに至つた昭和三一年度贈与税金四二五、〇〇〇円を納税しなかつたため、参加人が国税徴収法第二三条の一第一項により昭和三二年四月二三日本件貸金債権を差押え、主たる債務者である被控訴人菅井に対し翌二四日債権差押通知書を送付(なお債権者である控訴人に対しても同月二三日差押調書謄本を送付)したことは当事者間に争いがない(ただし被控訴人加藤は右事実を明らかに争わないので、これを自白したものとみなす)。そして成立に争のない(ただし被控訴人らは明らかに争わないので自白したものとみなす)丙第六、七号証によれば、昭和三三年九月一日現在において控訴人の右滞納税額等が本税四二五、〇〇〇円、利子税七〇、一二〇円、延滞加算税二一、二五〇円、延滞処分費七〇五円、計五一七、〇七五円であることが明らかである。そうすると差押債権につき特に数額の制限の認められない限り、控訴人は前記差押により、その効力の発生の時(前記債権差押通知書送付の時)以後、その効力の及ぶ本件貸金債権(この利息債権にも効力の及ぶことは後記のとおり)の全額につきこれを処分することができなくなつたものといわなければならないから、もはや右差押の効力を害するような取立の意味においてその請求権を行使し得ないものというべきである。

控訴人は国税滞納処分として債権を差押えた場合、国が債権者に代位するのは税額及び満紺処分費用の限度に止まり、その限度を超えた部分については債権者はなおその権利を行使し得るものである。しかるに本件貸金債権については昭和三二年一二月一五日から同三四年二月一日までの利息及び損害金の部分は国が代位した範囲に属しないものであつて、控訴人は依然としてこれを行使し得るものであるから、被控訴人らに対しその連帯支払を求める旨主張する。しかし国税徴収法第一八条によれば、同法に基く差押の効力は差押物より生ずる法定の果実にも及ぶべきものであるから、控訴人は前記差押以後においては滞納処分が終了するまで本件貸金債権より生ずる利息についても元本と同様その請求権を行使し得ないものというべきである。従つて滞納処分の終了していない現在(このことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いがない)、右差押以後である昭和三二年一二月一五日以降の残存利息等の連帯支払を求める控訴人の前記請求は、右の点においてすでに失当であり、棄却されるべきである。

次に参加人の控訴人に対する請求(当審で拡張されたもの)について判断する。

控訴人は先ずこの点について、右請求拡張の申立はその主張二の(1) (2) の理由によつて却下されるべきであると抗争するけれども、本件訴訟における控訴人及び被控訴人ら対参加人の関係は民事訴訟法第七一条のいわゆる独立当事者参加関係であることは訴訟の経過に徴し明らかなところであるから、控訴人の被控訴人らに対する控訴は同法第六二条の準用により当然参加人に対してもその効力を生ずべきものである。従つて参加人は本件訴訟に関与し得ないという控訴人の右(1) の抗弁は当らないし、また参加人は第一審において請求どおりの判決の言渡を受けていることは原判決によつて明らかであるから、更に控訴をなし得ないことは控訴人のいうとおりであるが原判決に対して控訴人の控訴がある以上被控訴人として附帯控訴によつて請求の拡張をなし第一審より有利な判決を求めることができるものと解すべきである。尤も参加入が当審に提出した請求の趣旨変更申立書には原判決に対し附帯控訴する旨の明示はないが、同書面の記載から原判決に不服であるから更に事件の審判を求める趣旨は十分窺われるから、これをもつて附帯控訴があつたものと見るのが相当である。従つて控訴人の右(2) の抗弁も当らない。

そこで前記請求の本案について案ずるに、控訴人が本件貸金債権五〇〇、〇〇〇円及び前記差押以後これより生ずる利息につき請求権を行使し得ないことは前認定のとおりであるところ、控訴人において右請求権は行使できる旨を争つている以上、本件貸金債権金五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する利息債権(この場合参加人の主張する利息債権とはいわゆる基本権たる利息債権の意と解する。仮りにいわゆる支分権たる利息債権をも含むとし、前記差押以前に生じた支分権たる利息債権には差押の効力が及ばないと解しても、差押以前に生じた利息はすでにこれを受領していることは控訴人の主張するところであるので、結論は同じである。)について、控訴人が請求権を行使することができないことの確認を求める参加人の請求は正当で、これを認容すべきである。

最後に参加人の被控訴人らに対する請求について判断するに、国税徴収法第二三条の一第二項によれば被控訴人菅井に対する前示債権差押通知書の送付により本件貸金債権の取立権限は前記滞納処分費及び税金額合計五一七、〇七五円(控訴人は参加人において内金一七、〇七五円を抛棄したと主張するけれども、これをめるべき証拠はない。)を限度として参加人に帰属したものというべきであるところ、右債権に対し参加人主張のとおりの弁済があり、よつてその主張のとおり税金等への充当がなされたことは被控訴人菅井はこれを認め、同加藤、佐藤はこれを明らかに争わないので、自白したものとみなすべきである。それなら被控訴人菅井に対し主たる債務者として、同加藤、佐藤に対し連帯保証人として(なお、参加人が同加藤、佐藤に対し昭和三三年八月二〇日前記保証債権を差押え、翌二一日該債権差押通知書を送付したことは当事者間に争いがない(ただし同加藤は右事実を明らかに争わないので、これを自白したものとみなす)。)本件貸金債権につき本税相当額金二一五、七〇五円(前記本税金四二五、〇〇〇円から金二〇九、二九五円を差引いた残額)、延滞加算税相当額金二一、二五〇円、利子税相当額金七〇、一二五円と相続税法第五一条の規定に従つたものと認められる別紙の計算により算出した昭和…二年九月二日から同三四年四月二一日までの利子税相当額金二四、一四九円、以上合計金三三一、二二九円及び内金二一五、〇〇〇円に対する昭和三四年四月二二日以降完済まで右規定所定の一〇〇円につき一日三銭の割合による利子税相当額の連帯支払を求める参加人の請求は正当で、これを認容すべきである。

以上の次第で参加人の請求の趣旨変更の結果結論を異にするに至つた原判決を変更することとし、民訴三八四条、三八六条、九六条、九四条、九三条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木禎次郎 上野正秋 兼築義春)

利子税金二四、一一九円の算出根拠<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例